オーナーインタビュー
2023

松阪豚を途絶えさせない、
初めて食べたあの感動を継承する

松阪豚専門店 まつぶた オーナー橋本 妃里

畜産界の最高傑作
「松阪豚」を残していきたい

早速ですが、どういった経緯で「山越畜産」を継承されることになったのですか?

もともと山越さんは「跡継ぎもいないから、俺の代で松阪豚は終わりや」と言っていました。そこに、山越さんが少しずつ病で弱っていくのを目の当たりにしたことで、「松阪豚」を残していくために自分がなにかできることがないかを考え始めました。
すでに「松阪豚専門店」としてまつぶたを構え、松阪豚の虜になっていましたし、起業当初から「松阪豚」を後世に伝え残したいとの思いが強くありました。ですから、「松阪豚」をこのまま途絶えさせるわけにはいかないと、これまでやったことのない「生産」に携わっていくことを決めました。

継承されるにあたって山越さんとはどのようなお話をされましたか?

山越さんに出会った当初、『本当に美味しかった』『豚と思えなかった』と素直な気持ちを伝えました。そして、松阪豚に感動した一人のファンとして、『この状況がもったいないですし、後世に松阪豚を伝え残していってほしい』ともお伝えしたのです。すると山越さんは『君は今まで誰もやらなかったことをやるかもしれんな』とおっしゃったのです。
その当時のことを、山越さんご本人が覚えていただいてるのかは分かりませんが、私がやろうとしていることに対して、反対することもなく生産を共にさせていただいています。しっかり寄り添い、伴走し、山越畜産閉業まで丁寧にご指導してくださりました。現在は、山越さんの力を借りず生産することができるようになりましたが、まだまだ指導していただきたいことも多く、もっとお話ししたいですね。(※2023年1月現在)

山越さんの最高傑作「松阪豚」を絶やしてはいけないという、橋本さんの想いが、強く伝わりました。

会社員だった私を、ここまでさせてしまう「松阪豚」は本当に魅力的で偉大です。「松阪豚を絶やさない」ということは、まさに私の使命ですので、これを全うしていきたいですね。

自身が畜産にまで関わることを想像していましたか?

まったく想像していませんでした。確かに「後世に松阪豚を伝え残していってほしい」とは言いましたが、まさか自分が畜産にまで関わるとは思っていませんでしたね。
ただ、山越さんに出会って10年ほどになりますが、起業をしたり、専門店を始めたりしていく中で、徐々に私がやるしかないんだろうな、という覚悟をつけていったように思います。
昨年(2022年)、初めて養豚のお手伝いを始めさせていただき、山越さんがやってきたことの凄さとか偉大さを本当に感じています。山越さんの養豚にかけた50年が、本当に何物にも代えがたい「松阪豚」という血統を生み出すためのものだったのだろうと、思います。

同じ松阪豚を扱うとしても販売店と生産者ではまったく違うチャレンジですね。

もう、本当にそうです。販売店で、精肉をして販売していくことももちろん様々な苦労がありましたが、生産者として、「松阪豚」の生産に初めて関わった際は、屠畜(家畜を食用目的で殺すこと)という現実と向き合うことがとても大変なチャレンジでした。また、販売から生産という、桁違いに変化した企業規模の大きさも、経営者のチャレンジとして非常にやりがいを感じています。

畜産業界の担い手の一人となってどんなことを感じますか?

担い手として名乗るには、まだまだですが、今後、食の大切さなども伝えていきたいと思っていますす。J-GAP※1や有機JAS※2規格の取得も視野に入れて動いています。
※1 ASIAGAP/JGAPは、農場やJA等の生産者団体が活用する農場管理の基準です。農薬・肥料の管理など、持続可能な農業につながる多くの基準が定められています。
※2 有機JASマークは、 農薬や化学肥料などの化学物質に頼らないことを基本として自然界の力で生産された食品を表しており、農産物、加工食品、飼料、畜産物及び藻類に付けられています。

松阪豚について橋本さんの想いを聞かせてください!

とにかく、山越さんが生産されていた「松阪豚」を絶対に絶やしたくない。大変な思いをしてまでも残し続けたいと思ったのは、本当に「松阪豚」の美味しさに感動したからです。そして、美味しさはもちろんのこと、サシのキレイさや山越さんが松阪豚に懸ける情熱など、松阪豚の良さを、どんどん理解していけるという楽しさが、絶やしたくない想いを強くさせました。だからこそ「松阪豚を絶やさない」という使命に向かって走り続けることができています。
たくさんの人に知ってもらいたいし、食べてもらいたい。そして私の地元でもある、「松阪」という地を盛り上げていきたい。色んな想いを呼び寄せてくれる「松阪豚」を私は本当に大事にしたいです。

今後は松阪豚を、お客様にどのように届けていきたいと考えていますか?

これまで、松阪豚は流通の問題もありオスとメスを分けて販売することはできませんでした。しかし今回、山越畜産から株式会社YCまつぶたPIG STORYでの事業継承により、生産数が一旦減りました。その結果、出荷作業を工夫することにより、赤身が濃く濃厚で味わい深いオスの去勢豚(特産 松阪豚)、サシが多く非常にジューシーで脂と赤身のバランスが良いメス豚(特産 松阪ひめ豚)に分けて、皆様にお届けできるようになりました。個性の違うそれぞれの松阪豚をぜひご賞味いただければと思います。
また「松阪豚」を世界に届けるために、一歩ずつ地道に地元から盛り上がっていけるような活動をしていきたいと思っています。

松阪豚を、地元松阪にどのように発展させていくことを考えていますか?

「一般社団法人肉肉肉協会」を設立したことで、「牛」「鶏」「豚」の三つの肉で松阪を発展させていきたいのです。松阪は「牛」の街として名前は知られています。しかし、「松阪」がどんなところかを知らない人がたくさんいるでしょうし、そもそも地元に居る私たちでさえ知らない魅力がつまった街だと感じています。松阪の「鶏」はB1グランプリで入賞したことで有名になりました。そして私たちまつぶたは「豚」を誇りにしています。そのような流れとご縁があり、牛・鶏・豚のそれぞれの肉を扱う企業が主となり、「一般社団法人肉肉肉協会」を設立することになったのです。
牛と鶏はすでに全国でも有名になっていますから、「豚を取り扱う私が理事をしなくては・・・!」といった感じで、一般社団法人肉肉肉協会の理事をさせていただくことになりました。これも「松阪豚」をたくさんの人に味わってもらいたい想いがあったからだと思います。定期的にサービスエリアなどに出店するので楽しみにしていただきたいですね!

これからの夢をお聞かせください。

とにかく「松阪豚」を多くの人に食べていただきたいのです。松阪中、三重県中、日本中、世界中と地道な活動になるとは思いますが、1人でも多くの人に届けられるよう全力を尽くしていきたいと思っています。また、生産に関しての夢もあり、「完全オーガニック豚」を生産することに取り組んでいきたいと考えています。

橋本妃里松阪豚専門店 まつぶた 代表

三重県松阪市生まれ。大阪のアパレル商社、三重県の株式会社アドウェルさんや焼肉の一升びんさんでの勤務を経て、2016年に独立。
松阪市高町に「山越畜産 松阪豚専門店 まつぶた」を立ち上げる。日本の養豚界のレジェンドと言われる山越弘一を師事し、松阪豚の美味しさと価値を国内外へ広めるために奮闘する。

過去のインタビュー

松阪豚継承ストーリー

まつぶたオーナー橋本が「日本養豚界のレジェンド」と言われた、畜産家・山越弘一から引き継ぐストーリー。山越が50年を懸けて生み出した究極のブランドポーク「松阪豚」を、絶やしたくない一心とその生産の現状に迫る。

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