オーナー
インタビュー

初めて食べたときの感動を、
世界に伝えていきたい

山越畜産 松阪豚専門店 まつぶた オーナー橋本 妃里

究極のブランドポークに
魅せられて

Interviewer 株式会社DDR 代表取締役安藤 竜二

安藤:「まつぶた」を立ち上げる前、橋本さんの背景を教えてください

「松阪市で生まれ、高校まで地元で育ち、その後は大阪へ。大阪の短大を卒業し、アパレル関係の商社に勤めました。そこでは商品開発のプロセスや面白さを学びましたね。デザイナーなど10~20名のチームになって東南アジアへ行き、生地やアクセサリーの買い付け、サンプルの製作などを行う毎日。その商社は全国に約60店ほど店舗を展開していたので、店頭に立って接客することもありましたね。今になって思うと、現在の仕事に非常に通じている部分があります。」

安藤:それから松阪に戻って来た?

「はい。松阪市に本社を置く株式会社アドウェルに転職。大手電気メーカーや健康機器メーカーと取引しているモノづくり企業です。アドウェルでは13年間もお世話になりました。アドウェルで働きながら焼肉店の一升びんでアルバイトを掛け持ちしていましたね。松阪市民に愛される地元の有名焼肉チェーン店です。」

安藤:掛け持ちするなんてバイタリティがすごいですね

「小さい頃から働いていないと落ち着かないとうか。短大時代も5~6件ほどアルバイトを掛け持ちしていました。実家が橋本酒店と言い、店頭の端っこで立ち呑みができる酒屋で、伊勢市や松阪市ではこうした文化を〝てっぱつ〟、関西では〝角打ち〟と呼ぶそうです。小さい頃からビールケースを台にして、カウンター越しに酒を注ぐなど手伝って小遣いをもらう。そういう生活が染み付いているんですよね。一升びんのアルバイトの他にも、働きながらパンマイスターやパティシエ、マクロビについて勉強もしていました。」

安藤:では、どうして松阪豚を始めることに?

「お婆ちゃんが、実家を立てた工務店の社長さんから『これは旨いよ』と、松阪豚をプレゼントされたんです。それは立派なブロック肉でした。その日はアルバイトがあって食べられず、翌朝、夜に作った冷たいステーキを温め直して食べたんです。すると驚いた。『松阪牛だったんだ!』と最初は思いました。そもそも松阪豚なんて聞いたことはなかったし、お婆ちゃんが大工さんの言葉を聞き間違えたんだろうと。でも、やっぱり牛肉とは違う。お婆ちゃんも『松阪豚だよ』と言い切る。調べてみると〝松阪豚サクラポーク〟とか、漢字が違う〝松坂豚〟なんてものもある。どれがどうなのかさっぱり分かりませんでした。」

安藤:ブランド化がされていなかったのですね

「はい。普段なら『まぁいっか』で済ませられるのに、あの美味しさが気になって仕方がなかった。それで工務店の社長さんに確認すると『やっぱり旨かったでしょう』と言い、生産者の名前を教えてくれたんです。それが私の師である山越さんでした。ただ、素直に思ったのは、『こんなに美味しいのにどうして松阪牛みたいにブランド化できていないの?』とか、『知らない人が多くない?どうして世の中に広まっていない?』とか、そんな不満ばかりでした。工務店の社長さんも同じ考えを持っていたようで、『そうやろ?』と呆れた顔に。すると『本人に言ったら?』と言うんです。そうして山越さんにお会いする機会を作ってくれました。」

安藤:山越さんはどういう方なんでしょう?

「山越弘一と言い、誇張でも謙遜でもなく、日本の養豚界のレジェンドです。全国養豚経営者会議(現:社団法人 日本養豚協会)を20代で立ち上げ、副会長や会長を歴任。日本の養豚の発展に寄与してきました。現在は、一人の生産者として松阪市で山越畜産を運営しています。」

安藤:お会いしてどんなことを話したのですか?

「『本当に美味しかった』『豚と思えなかった』と。松阪豚に感動した一人のファンとして、素直な気持ちをただただ伝えました。そして『この状況がもったいないですし、後世に松阪豚を伝え残していってほしい』とも。すると山越さんが言うんです。『君は今まで誰もやらなかったことをやるかわからんな』と。その頃の私は一人の会社員ですし、起業する考えはありません。でも、数日しても山越さんの言葉が頭にずっとこびりついていて…。何かしないと落ち着かないタイプですから、自然と松阪豚のことを調べていました。調べれば調べるほど松阪豚への思いが強くなるばかり。いてもたってもいられなくなり、気がつけば『勉強させてください』と、山越さんにお願いしていましたね。」

安藤:一つの食が一人の人生を変える。すごいエネルギーを持った食肉ですね

「運命だったのかもしれません。山越さんから縁のある直売所を紹介していただき、そこで肉のさばき方を学んだり、山越さんのもとで松阪豚の飼育や歴史について教わったりしました。この年齢になってこれほど胸が高鳴ることや修行する身になることは、まったく想像していませんでしたね。山越さんとお会いしてからおよそ1年後に独立。そうして2016年に松阪豚専門店『まつぶた』をオープンさせました。」

安藤:松阪豚の特徴を教えてください

「山越畜産にて、出生から220日間育てられたLWD三元交配豚を指します。ランドレース種(L)と大ヨークシャー種(W)を交配した母豚に、デュロック種(D)を掛け合わせた三元交配豚で、これは山越さんが約50年も研究を重ねてたどり着いた組み合わせです。肉は桜色で、脂肪はつきたてのお餅のよう。その組成は油脂分30%、コラーゲンをなんと70%も含んでいます。きめ細やかな肉質と滑らかな脂質で、豚肉の価値観を変えてくれます。エサは麦や大豆など天然のものしか与えておらず、水はミネラルを含んだ地下水だけ。気候や風土も影響しています。松阪牛で検証済なのですが、別の地域で同じ掛け合わせや条件で飼育しても、まったく異なる牛になったそうです。松阪牛と同じように、松阪豚もこの地域と努力が生んだ、日本の宝と感じています。」

安藤:まつぶたではどのような展開を?

「2016年に精肉店としてオープン。2017年に惣菜、イートイン、弁当販売店を拡張させました。来ていただくと分かりますが、精肉店なのにお肉はほとんど並んでいません。理由は、フルオーダーカットシステムで切り立てのお肉をお持ち帰りいただくためです。コマでも切り落としでも100gでも、希望の厚さにスライスして提供しています。業務用精肉店では、豚肉は部位を細かく分けずに販売しているケースが多いです。まつぶたでは、例えばモモなら、ウチモモ、ソトモモ、ほかにはランプやシンタマなど希少部位も取り出し、細かく分類して提供。全国発送や飲食店への卸売りも行っていて、今では東京の有名フレンチ店やミシュランに掲載された店舗でも松阪豚を利用されています。食通の方や食のプロの方にも認められてきていると実感していますね。」

安藤:これからの夢を聞かせてください

「山越さんの想いを継ぎ、日本、そして世界に松阪豚を広めていくことです。もっとシンプルに言えば、私が感動したあの瞬間を皆さんにも知ってほしい。あっさりしているけど、口の中でとろける芳醇な旨味。『これほど美味しい豚肉があったんだ!』そんなストレートな感動を伝えていくのが私の夢です。」

橋本妃里山越畜産 松阪豚専門店 まつぶた 代表

三重県松阪市生まれ。大阪のアパレル商社、三重県の株式会社アドウェルさんや焼肉の一升びんさんでの勤務を経て、2016年に独立。
松阪市高町に「山越畜産 松阪豚専門店 まつぶた」を立ち上げる。日本の養豚界のレジェンドと言われる山越弘一を師事し、松阪豚の美味しさと価値を国内外へ広めるために奮闘する。

安藤竜二株式会社DDR 代表取締役

実戦で培った経験が武器の叩き上げブランディングプロデューサー。
地域ブランド「サムライ日本プロジェクト」を主宰。2007年8月、経済産業省より地域中小企業サポーターに委嘱。地域を元気に、地域を世界に発信するため、全国を奔走中。著書に『地域企業から学ぶ 未来に繋がるブランディング術』(株式会社流行発信・発行)他3冊。

松阪豚ブランドストーリー

「日本養豚界のレジェンド」と言われる、畜産家・山越弘一。
山越が50年を懸けて生んだ究極のブランドポーク「松阪豚」の、知られざる歴史に迫ります。

詳細はこちら